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世界の"おもしろそう"を日本語に訳します



SEKAIWOYAKUSU

世界の"おもしろそう"を日本語に

「テクノロジーは私たちの心を乗っ取っている」:後編

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ハイジャックの方法6:底なしのボウル、無限の供給、そして自動再生

人びとの心をハイジャックさせる方法は、人びとにモノを消費させ続けることだ。いくら消費者が満腹でも、商品を食べさせるようなものだ。

さて、どのように満腹な消費者にさらにモノを食べさせられるのだろうか?

限界と制限がある経験を、終わりのない底なしの経験に代えてしまえばいいのだ。

コーネル大学のブライアン・ワンシンク教授は、実験で被験者にスープを自動的に補填する仕掛けが施してあるボウルにスープを入れ提供するという実験を行った。結果、73%の被験者が底なしのボウルに入ったスープを通常のボウルに入ったスープよりも多く食し、摂取したのは140カロリーと大幅に過小評価していたことが分かった。

人は騙せるのだ。

テクノロジー関連の企業は、これと同じ原理のトリックを利用している。ニュースフィードは絶え間なく新しいニュースや出来事が自動的に補填されるようにデザインされており、利用者にスクロールし続けさせるようにデザインされている。また、スクロールし続けることを中断・中止させる理由を故意に除外している。

これこそが、ビデオとシャーシャル・メディアが融合したNetflix、YouTube、Facebookに、再生中の動画が終了した際に数秒のカウントダウンを表示した後、次のエピソードを自動的に再生する機能が備わっている理由だ。次のエピソードを観るか、中断するかを意識的に選択をさせるよりも、数秒の猶予を与えて決断の時間を限定することができる自動再生という機能こそが、こういったウェブサイトの膨大なトラフィックの大部分を支えているのだ。 

こういった企業は常々、「私たちは利用者により簡単にビデオを観てもらうために自動再生の機能を活用しています」と主張しているが、実際は彼らのビジネスに恩恵をもたらすから使われているだけだ。但し、利用者である私たちは、企業を非難することはできない。なぜなら、彼らにとって「どれだけの時間を自身のサイトを利用者に使わせたか」というのが、彼らが競っていることそのものなのだから。

ハイジャックの方法7:一瞬の妨害か、利用者の尊重か

企業は、非同調的に届くメールや、新着メールが届いたという通知が遅れて発信される受信トレーよりも、メッセージが一瞬のうちに人びとの注意を引き付け、行動を妨害できることを知っている。

例えば、Facebook Messenger、WhatsApp、WeChat、SnapChatのようなメッセージ・アプリは、利用者が現在していることを直ちに中断してまで、新着メッセージをチェックさせるようにデザインされているほうが好まれる。例えば、スマートフォンの通知画面にメッセージを表示させて、メッセージを受け取った利用者の注意を、他にしていることから奪うわけだ。いいかえれば、利用者を妨害することは、こういった企業のビジネスにとっては良いことなのだ。

また、「新着のメッセージに対して早く返事をしないと」と思わせ、緊急性を煽ることも企業の利益に繋がる仕掛けだ。例えば、Facebookのメッセンジャーでは、送信者はあなたがいつメッセージを読んだかを自動的に知らせる機能が備わっている。いわゆる”既読”を知らせる機能だ。この機能により、私たちは「”既読スルー”は失礼だから、早く返事をしないと」という社会的義務をより強く感じることになる。 

これとは対照的に、Appleは既読を表示するか、非表示とするかをユーザーに選択させている。ただ、問題なのは仕事関係のメッセージだ。これは無視することもできないため、世界中の人びとの集中力の持続時間の低下や必要のない妨害を生んでいる。これは、メッセージ・アプリもデザインに対して、一定の規則を設けることで是正しなければならない大きな問題である。

ハイジャックの方法、その8:利用者の目的を、企業の理由にする

アプリが私たちの心をハイジャックする方法として、与えられた仕事や目的を果たすためにアプリを開く理由を作り、アプリがなければ仕事を完了できないようにするというやり方がある。

例えば、ネットショップではなく物理的なスーパーマーケットを例に考えてみよう。私たちがスーパーマーケットに行く理由の中で1番多いのは薬の補充、2番目は牛乳を買うためだ。しかし、スーパーマーケットは、来店した客が店で使うお金を最大化したいから、薬と牛乳が置いてあるコーナーを店の一番奥に設けているのだ。 

言いかえれば、スーパーマーケットは消費者が本当に欲しいもの(例えば、牛乳や薬)を、スーパーマーケットが売りたいものと切り離せないような仕組みにしているのだ。もし、スーパーマーケットが、客である消費者の利便性を最優先に考えているのであれば、最も売れる商品を入り口から近いところに置くようにするはずだ。

テクノロジー関連の企業は、自身のウェブサイトをスーパーマーケットと同じような作りにしている。例えば、あなたが今夜起こっていることをFacebookで調べようとしているとしよう。「今夜起こっていることを調べる」というのがあなたの目的だ。しかし、Facebookのアプリは、すぐにあなたの目的に直結するようなページにはアクセスさせない。目的とするページにたどり着くまでに、ランディングページにあるニュースフィードを通過しないといけない。「ランディングページにあるニュースフィードを通過させる」というのが企業側の目的だ。あなたがFacebookを使う明確な目的や理由を、「利用者がFacebookを使う時間を最大化する」という企業側の目的・理由に転換させたいわけだ。 

下記を想像してみてほしい。

  • Facebookが流しているニュース・フィードを見ずとも、Facebook上で起きている出来事を調べる、もしくはイベントを開催することが出来る方法をFacebookが用意したら。
  •  Facebookの全てのアプリ、ニュース・フィード、通知機能を強制的に利用させられることなく、Facebookを新しいアプリやウェブサイトを作成するための、ネット版パスポートのような役割を果たすようにできたとしたら。
  •  メールが強制的にすべての未読のメールを読ませるのではなく、特定のメッセージをチェックや返信をする方法を兼ね備えたとしたら。

 理想の世界では、つねに利用者が欲しいものに直結する道があり、それは企業が欲しいものに直結する道とは別にあるものだ。

数十億人が使うウェブサイトやアプリといった商品に対して、利用者の利用目的に直結するようなデザインを強制するようなネット版の権利章典があったら良いののではないだろうか。

ハイジャックの方法9:不都合な選択

私たちは企業から「選択肢があれば十分」だと伝えられてきた。

例えば、こんな感じに…

  •  「もし、この商品やサービスが嫌いなら、いつも別のサービスや商品を使うという選択肢がある」
  •  「もし購読することが嫌なら、いつでも購読をよめることができる」
  •  「もし、私たちが開発したアプリに依存しているのであれば、いつでもそれを削除できる」

 企業は自然に、彼らが私たちに選ばせたい選択肢を選択することを簡単にし、選ばせたくない選択肢を選択することを難しくしている。マジシャンも同じことをやる。マジシャンは自身が選ばせたいものを観客に選択させることを簡単にし、選ばせたくないものを選択させることを難しくする。

 例えば、ニューヨーク・タイムズのウェブサイトでは、購読者は購読をキャンセルすることを自由に選択できる。しかし、実際に購読をキャンセルするボタンを押してみると、ニューヨーク・タイムズからメールが届く。メールにはアカウントを削除するために記載されている電話番号に電話をするようにと書かれている。しかも、電話の受付時間は限られており、購読をキャンセルすることは見た目以上に手間のかかる手続きだ。

私たちは、物事を「選択可能な選択肢」という視点からみるのではなく、「選択可能な選択を成立させるために設定されている抵抗」という支店からみたほうが良いだろう。もし、この世界にある無限の選択肢にその選択を成立させることの難易度を表示してみたら、どうなるだろうか。独立した第三者機関が、選択が成立することの難易度に対して一定の基準を設けたとしたら?

 ハイジャックの方法10:エラーを想定すること

 最後となるが、アプリは利用者のクリックした結果を想定することができないという脆弱性を悪用している。

人びとはクリックした際に支払う対価を直感的に予測することはできない。広告を販売している人びとは、”Foot in the door”(ある目的に向かって第一歩を踏み出すという意味)というテクニックを使っている。まず彼らは、当たり障りのない小さな要求をしてくる。例えば、どのツイートがリツイートされたかをみるためのワンクリックのようなものだ。そこから、要求は「しばらくの間、ツイッターに留まってみれば?」といった内容にエスカレートしていく。コンピューター上では、ウェブサイトに利用者を回遊させ繋ぎとめておくために、こういったトリックが使われている。

もし、ブラウザーとスマートフォンが利用者に対してクリックしたことによる対価を想定できるような仕組みが備え付けてみたら、どうだろうか。クリックから得られる情報や利益とクリックしたことによってかかる時間や費用といった対価を事実に基いて表示するのだ。

こういった仕組みは実装された方がよいと思う私は、自分で書いた記事の一番上に記事を読み終わるまでにかかるおおよその時間を表示している。クリックによる生じる本当の対価を提示することで、私たちは利用者、観客、読者に彼らの尊厳を守り、敬意を払うことができる。インターネットで”より有意義に時間を過ごす”ために、ただの選択肢を表示するだけでなく、選択肢の向こう側にあるコストと恩恵の想定を表示することで、意図しない時間や費用の浪費を防げるわけだ

まとめと改善策

どのようにテクノロジーがあなたの心をハイジャックしているかお分かり頂けただろうか?多くの読者は怒っているのではないだろうか?私も怒っている。この記事では、テクノロジー関連の企業が使っているテクニックのほんの一部を解説してきたが、こういった人間の心理的な脆弱性を悪用するテクニックは数千通りはある。

すべての本、セミナー、ワークショップ、トレーニングがテクノロジー企業家にこういったテクニックを教えていたとしたら、どうだろう? 

多くのエンジニアの仕事は、彼らのウェブサイトやアプリに利用者を依存させ、中毒にさせつなぎとめておく方法を開発しているとしたら、どうだろう?

究極の自由とは、自由な心を持つことだ。そして、私たちは日々の生活、理解力、想像力、行動をより自由するテクノロジーを必要としている。

私たちが使用しているスマートフォン、スクリーン上に現れる通知、ブラウザーは私たちの衝動や欲求を支配するのではなく、私たちの心や対人関係を重視した外骨格となるべきだ。人間がもつ有限な時間は貴重だ。よって、私たちの時間はプライバシーやデジタル著作権などの権利と同様に厳密に保護されるべきなのだ。

 

「テクノロジーは私たちの心を乗っ取っている」:前編はコチラから

 

元記事:How Technology Hijacks People’s Minds — from a Magician and Google’s Design Ethicist

この記事を訳しながら聞いていた曲