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世界の"おもしろそう"を日本語に訳します



SEKAIWOYAKUSU

世界の"おもしろそう"を日本語に

「テクノロジーは私たちの心を乗っ取っている」:前編

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私はテクノロジーがどのように私たちの心理的な脆弱性をハイジャックしているかについて調べている専門家だ。過去3年にわたって、Google社でデザイン倫理学者として数十億人の心をテクノロジーのハイジャックから守るために、どのようにモノをデザインすべきかについて考えてきた。

テクノロジーを利用する際、テクノロジーが私たちにもたらす恩恵、つまりはプラスの部分にしか注意を払わない。しかし、ここではテクノロジーが私たちに与えているマイナスの部分について話そうと思う。

テクノロジーは、どのように私たちの心の弱みにつけこむのだろうか?

むかし、私はマジシャンだった。マジックからは、テクノロジーがどのように私たちの心の脆弱性につけこむを学ぶことができた。マジシャンは私たちの注意が及ばない死角や脆弱性を探す、もしくは予めマジシャンにとって優位な状況を作る方法を探るところから始まる。これによって観衆の認知を制限し、気づかないうちにトリックを完了させ、観衆を驚かせることができるわけだ。一度でもあなたが人々の注意を逸らす、もしくは認知の外せるトリックを使えるようになれば、このトリックをまるでピアノを弾くように優雅に利用することができる。

これはまさにプロダクト・デザイナーが、あなたの心につけこむ方法と同じだ。彼らは、あなたの意識的、もしくは無意識的は心理の脆弱性をもてあそび、あなたの注意をひくゲームをしている。これから私は彼らがどのようにしてこのゲームをプレイしているのかを説明しよう。

ハイジャックの方法1:メニューをコントロールし、選択もコントロールする

西洋的な文化は、理想的な個人の選択と自由のうえに構築されており、私たちの選択の自由は厳しく保護されている。しかし、私たちはメニューに載っている選択可能な選択肢はすでに制限、もしくは操作されているという事実を無視している。

これはまさにマジシャンが行っている奇術と同じだ。彼らは観衆に”選択の自由”という幻想を与えている間に、観衆がメニューに載っているどの選択肢を選んだとしても自分たちが勝てるように始めから設計している。私は、こういったトリックがどれほど奥深いものなのかを上手く説明できない。

人々がいくつかの選択肢が載っているメニューを与えられたとき、そのメニューに対して下記のような質問をすることは珍しいだろう。

  • 「メニューにない選択肢は何があるの?」
  • なぜ、私はこれだけのオプションしか与えられずに、これら以外のオプションは与えられないのか?
  • このメニューの提供者の目的はなにか?
  • このメニューは私の希望に助けになるものなのか?それともメニューに載せられている選択肢は、実際には私の希望を妨害するものなのか?

例えば、あたなが火曜日の夜に友人と出かけているシチュエーションを想像してほしい。その夜は、友人との話が弾んで、もっと会話を楽しみたいと思っているとしよう。あなたはYelpを開いて、付近のオススメされているバーのリストを見つけ出す。あなたと友人は、スマートフォンをみつめながらリストにあるバーを比較し始める。リストにあるバーの内装やカクテルの写真などを詳しく見るだろう。それでは、このリストはあなたと友人の「もっと会話を楽しみたいという欲望に関連するものなのだろうか?

バーに行くこと自体が悪い選択だと言っているわけではない。Yelpというアプリがあなたと友人の「もっと会話を楽しみたい」という元々の質問を、メニューをみせることで、「オシャレでカクテルが美味しそうなバーはどれだろう?」という質問に変化させているのだ。

さらに、あなたと友人は「Yelpが表示しているメニューが、どこに行くべきかを提案する完璧な選択肢を示している」という幻想に陥っている。バーをスマートフォンで探しながら歩いているうちに、あなたたちは公園を挟んだ向かい側の通りでバンドが生演奏しているのを、もしくは、通りの反対側にクレープやコーヒーを販売している屋台を見過ごしてしまっているかもしれない。なぜなら、バンドの生演奏も屋台もYelpが表示しているメニューには載っていないからだ。

テクノロジーは生活のほぼ全ての分野(情報、出来事、行くべき場所、友だち、デート、仕事など)において、多くの選択肢を私たちに提示している。そして、私たちはスマートフォンが常に生活を豊かにし、便利な選択肢を与えてくれていると当然のように思っている。果たして、これは事実なのだろうか?

もっとも私たちの生活を豊かにする選択肢が載っているメニューは、もっとも多くの選択肢が載っているメニューとは異なる。しかし、私たちが気付かぬうちに与えられたメニューに身を委ねてしまっていた場合、この違いを認識し続けることは簡単なことではない。

例えば、

  • 「誰か今夜出かけない?」は、私にメールを送った人々の最新のメニューになる。
  • 「世界で何が起こっているの?」は、新しいニュースフィードのメニューになる。
  • 「誰か独身でデートできる人?」は、Tinderに登録されている人々の顔写真のメニューになる。これにより、利用者は友だちと参加できる地元のイベントに参加する可能性を失う。 
  • 「このメールに返信しなきゃ!」は、返信するためにタイプするキーがメニューとなる。これにより、他社との直接的なコミュニケーション能力が阻害される。 

多くの現代人にとって、朝起きて、スマートフォンを起動させ、通知リストを見るという一連の行動は慣習となっている。これにより、起床という体験は、寝ている間に見過ごした出来事のメニューを確認することに支配される。

私たちの選択肢が載っているメニューを構築することで、テクノロジーは数多くある選択肢を制限している。実際、テクノロジーは私たちの選択に対する理解や認識をハイジャックし、新しい選択肢と替えている。しかし、テクノロジーによって与えられている選択肢を注意深くみればみるほど、与えられた選択肢は私たちの本当の欲求や希望に沿っていないものだと気づくはずだ。

 ハイジャックの方法2:スロットマシンを数十億人のポケットの中に入れる

もし、あなたがアプリだとしたら、多くの利用者に使い続けてもらうには、どのようなアプリになれば良いだろうか?答えはスロットマシンのアプリになることだ。

私たちは、1日に平均150回ほどスマートフォンをチェックしている。なぜ、こんなにも多くの頻度でスマートフォンをチェックするのだろうか?私たちは意識的に「スマートフォンをチェックする」という選択を150回も行っているのだろうか?

私たちがスマートフォンをチェックする大きな理由の1つは、スロットマシンが内包する心理的な影響に隠されている。継続的に変動する報酬を与えるスロットマシンならではのカラクリだ。

もし、依存症や中毒性を最大限に高めたいのであれば、テクノロジー・デザイナは利用者の行動(例えば、レバーをひく)に対して変動する報酬を与えれば良い。レバーをひけば、直ちに魅力的な報酬(例えば、マッチする異性やアイテム)を与えるか、ハズレとして何も与えないといった具合だ。報酬を得られる確率を最大限に変動させれば、中毒性も同時に最大限に高めることができる。

このカラクリは、本当に人々に影響を与えるのだろうか?答えは”イエス”だ。米国において、スロットマシーンはメジャー・リーグ、映画、テーマパークの収益を足したよりも大きな収益を生んでいる。また、ニューヨーク大学で教授を務め、Addiciton by Design(デザインによる中毒)という本の著者でもあるナターシャ・ダウ・シュル氏は「スロットマシンは他のギャンブルよりも3〜4倍の早さで依存症になる」と述べている。

ここで不幸な真実を皆さんにご紹介しよう。この地球上に住む数十億の人々は、ポケットにスロットマシンを持っているのだ。

  • 私たちがポケットからスマートフォンを取り出して、スマートフォンに届いている通知をみることはスロットマシンのレバーをひくことと同じだ。
  •  私たちがメールアプリを開いて画面を上から下に引っ張り、新しいメールを受信することはスロットマシンのレバーをひくことと同じだ。
  • Instagramのフィードをみるときに下にスクロールし、次に表示される写真はなんだろうというワクワク感は、スロットマシンのレバーをひく際のワクワク感と同じだ。
  • Tinderに表示された登録者の顔写真を右に左にスワイプして、好みの相手を探すことはスロットマシンのレバーをひくことと同じだ。
  • 赤色で表示された通知数のアイコンをタップして、どのような通知が届いているのかをチェックすることはスロットマシンのレバーをひくことと同じだ。

アプリとウェブサイトは、断続的に変動する報酬をばら撒いている。なぜなら、これはビジネスにとって良いからだ。

しかし、他のケースでいえば、スロットマシンは偶然によって出現する。例えば、送信するメールを意識的にスロットマシンのようにすることを選択している悪意ある企業はないだろう。何百万人ものメールの受信者がメールをチェックし、開けたメールに内容が何もなければ、誰も得はしないわけだ。AppleやGoogleのデザイナーたちは、スマートフォンをスロットマシンのようにデザインしているわけではない。スロットマシンのような働きをしてしまっているのは偶然なのだ。

しかし、AppleやGoogleのような企業は、スマートフォンに断続的に変動する報酬が引き起こすスマートフォン依存のリスクを減らす責任がある。それには、スロットマシンをひいた結果が予想できるより良いデザインだ。例えば、AppleやGoogleのような企業は、1日のうち、もしくは1週間のうちで”スロットマシン・アプリ”をチェックしたくなる時間を予測することができるだろう。そうすれば、新しいメッセージがスマートフォンに届く時間を、この時間に限定できるようにすることで、依存症がいくらか改善される。

ハイジャックの方法3:何か重要なことを見逃すという恐怖心を利用する

アプリやウェブサイトが人々の心をハイジャックする方法として、「何か重要なことを見逃す1%の可能性」という恐怖心を誘発させることだ。

もし、あなたのスマートフォンに重要な情報、メッセージ、友人関係、性的機会をもたらすアプリがダウンロードされていたとしよう。あなたにとって、このアプリを削除、もしくは利用や購読を中止することは、とても難しいことだろう。なぜなら、このアプリを削除することで、もしかしたらあなたは重要な何かを見逃してしまうかもしれないからだ。

これは私たちが自らの利益になること、もしくは興味がある内容を届けていないにも関わらず、メールマガジンを購読し続ける理由だ。「購読をやめて、もし将来的に重要な知らせを逃してしまうかも」と不安になる。 

  • これは長いこと話していない友人でも、Fecebook上で”友だち”として登録しておく理由だ。「友だちとして登録しておかないと、もしくは友だちの登録を解除することで、彼らの重要な知らせなどを見逃してしまうかもしれない…」という不安をかきたてる。
  • これは私たちが出会い系アプリで誰とも会ったこともないのに、登録している異性の写真をスワイプし続ける理由だ。「もし、キレイな、カッコイイ異性を見逃してしまったら…」という不安をかきたてる。
  • これは私たちがソーシャル・メディアを使い続ける理由だ。「もし、重要なニュース、ストーリー、友だちが話題にしているトピックについていけなかったら…」という不安をかきたてる。

「何か重要なことを見逃してしまうかもしれない…」という不安について、よく考えてみよう。そうすると、私たちはどのようなタイミングにおいても、何かを使うのを止めてしまえば、常に重要な何かを見逃していることに気がつく。

  • 6時間もFacebookをチェックしなければ、見逃していることがたくさんある。例えば、古い友人が地元に戻ってきているけど、この通知を見逃してしまっているかもしれない。
  • Tinderでは、700回は画面をスワイプしないと夢のような理想的な異性を見つけられないかもしれない。なぜなら、701回目で理想的な異性を見つけられるかもしれないのだから。
  •  週7日、24時間、常に携帯電話につながっていなければ、緊急の連絡を逃してしまうかもしれない。

日常生活における一瞬、一瞬をつねに「何かを見逃してしまっているかもしれない」という不安・恐怖心とともに過ごすことは、とても不自然で不健康だ。 

ひと度、この不安・恐怖心を解き放ってしまえば、幻想から目覚めるのは驚くほど早い。キャンプにでも行って、スマートフォンやインターネットといったテクノロジーを1日以上使うのをやめてみよう。そうすれば、テクノロジーにつながっていないことで生じる不安や恐怖心には襲われない。

私たちが見ていないものは見逃したことにはならないのだ。

「何か重要なことを見逃していたらどうしよう…」という考え方は、インターネットの使用をやめる、スマートフォンの電源をきる、メールマガジンの購読をやめる前にわき起こる不安だ。テクノロジー関連の企業がこの事実を認識していて、「何か重要なことを見逃していたらどうしよう…」という不安を掻き立て、インターネットやスマートフォンの使用に割く時間を長くするよりも「実生活をより有意義に過ごす」ということに重点を置いたら、私たちの生活はどうなるか想像してみてほしい。

ハイジャックの方法4:社会から認められたいという欲求を利用する

私たちは自然と社会から認められたいという欲求を持っている。この欲求は、社会や周りにいる人々と繋がっていたい、認められたい、評価されたいという人間が持つもっとも高いモチベーションでもある。しかし、私たちが求める社会からの認知とは、もはやテクノロジー関連の企業からもたらされるようになっている。

友人がアップロードした写真に自分がタグ付けされたとき、多くの利用者は友人が意識的に「私をタグ付けする」という選択をしたと想像するだろう。しかし、Facebookのような企業が友人に私をタグ付けさせるような仕組みが、どのように構築されているのかは分からない。

Facebook、Instagram、SnapChatは、どのくらいの頻度で利用者が写真の中でタグ付けされるかを操作することができる。それは写真に写っている全ての顔を顔認識機能を使って、顔の近くに自動的に「○○さんをタグ付けしますか?」という、タグ付けをオススメするポップアップを表示させる方法だ。

友人が自分をタグ付けした際、友人はFacebookのオススメに対して応答しているだけで、実際は独自の判断で私をタグ付けしたわけではないのだ。しかし、こういった選択肢をデザインすることで、Facebookは数百万の利用者が自身のタイムライン上で、どのくらいの頻度で社会からの認知を経験するかをコントロールしているわけだ。

私たちがプロフィール写真を変更した時も同じことが起きている。Facebookは、プロフィール写真の変更は、私たちが社会からの認知や反応を求めていることの結果であると知っている。Facebookは、プロフィール写真を変更したというフィードをタイムラインの上位にもってきて、それに対する「いいね!」やコメントが増えれば、増えるほどタイムラインの上位に留まる時間が長い。また、時間の経過とともにプロフィール写真変更のフィードがタイムラインの下位に引き下げられたとしても、「いいね!」やコメントがあれば上位に引き上げられる仕組みとなっている。

人は誰しも、生まれつき社会からの認知を欲し、それを獲得するために行動する。しかし、人口統計上、10代の若者たちは社会からの認知を他の年代の人々よりも強く欲している。これは若者特有の精神的な脆弱性といえる。この脆弱性をデザイナーは知っており、この脆弱性を利用できるようにウェブサイトやアプリをデザインしていることを知っておくことは、とても大切だ。

ハイジャックの方法5:社会的な互恵関係 (強迫的なお返し合戦)を利用する

  • 頼みごとをして貰ったから、次は私があなたの頼みごとをきかないといけない。
  • 「ありがとう!」って言われたから、「どういたしまして!」と返さないといけない。
  •  メールが届いたから、返信しないと失礼だ。
  •  誰かが私をフォローしたから、フォロー返ししないと失礼だ。

私たちは、他者が行った意思表示に対して、お返しする必要があると感じる脆弱性を兼ね備えている。しかし、社会からの認知に対する欲求のようにテクノロジー関連の企業は、私たちがこの脆弱性をもっていることを知っており、どのくらいの頻度で私がこの「お返し」を経験するかを管理しているのだ。

時には、この「お返し」の経験は偶然によって引き起こされている。利用者がメール、ショートメール、メッセージアプリは、「お返し」による互恵関係を保つためのアプリとも言える。しかし、これは企業が私たちの心理的な脆弱性につけこんで、故意に「お返し」の経験を引き起こしていることもある。LinkedInは、その最たる例だ。LinkedInは、多くの利用者が多くの社会的義務をお互いに課してほしいと思っている。なぜなら、つながりリクエストへの承諾、届いたメッセージへの返信、他ユーザーに対するスキル推薦などに対する「お返し」をする度に、利用者はLinkedInに戻らなくてはならないからだ。そうすることによって、利用者はより長い時間をLinkedInに費やすことになる。

FacebookやLinkedInは、認識の非対称性につけ込み利用している。あなたがフレンドリクエストやつながり申請を誰かから受けた場合、あなたは申請者が意識的にあなたとつながるという選択をしていると思っているだろう。しかし、現実では、彼らはFacebookやLinkedInが表示した「知り合いかも」というリストに対して、無意識のうちに反応しているだけなのだ。言いかえれば、LinkedInはあなたの無意識な衝動や行動を、リクエストへの反応や届いたメッセージへの返信という新しいタイプの社会的義務に変化させているのだ。フレンドリクエストやメッセージを無視することは失礼だと思うだろう?誰しも「失礼な人」だとは思われたくないため、人々は返信をして社会的義務を果たすわけだ。ただ、忘れちゃいけないのは、FacebookやLinkedInは私たちに彼らのサービスを利用させることで収益を生んでいるのだ。

何百万人もの人びとが、このようにFacebookやLinkedInに1日中、邪魔をされていることを想像してみて欲しい。頭を切り取られたチキンが走り回っているような滑稽な光景だ。フレンドリクエストの承諾・拒否、メッセージへの返信、コメントへの返事といった、互いへの「お返し」合戦は、企業によってデザインされており、そこから利益を得ているのである。

ソーシャル・メディアの世界へようこそ。

もし、テクノロジー関連の企業が「人びとが持つ互恵関係を継続しなければいけない」と思う心理的な脆弱性を認識しており、これを利用することを制限するような義務を持っていたら、どうなるだろうか?もしくは、独立した第三者機関(例えるならテクノロジー版の食品医薬局のような機関)が、企業がこういったバイアスを乱用していないかを監視したとしたら?

 

「テクノロジーは私たちの心を乗っ取っている」:後編はコチラから

 

元記事:How Technology Hijacks People’s Minds — from a Magician and Google’s Design Ethicist

この記事を訳しながら聞いていた曲