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世界の"おもしろそう"を日本語に訳します



SEKAIWOYAKUSU

世界の"おもしろそう"を日本語に

国の風土が言語を形作る?

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ハワイ語を話す人なら分かるだろうが、ハワイ語は主に母音で構成されている。ハワイ語は13の文字で構成されており、その中には8つしか子音が存在しない。なので、ハワイ語の多くの言葉の意味は「aahs」や「ohs」や「eehs」といった、主に母音によって構成される発音によって表現される。

ハワイ語を聞いたことがある人の中には、ハワイ語はハワイを取り囲む海の音のように聞こえるという人もいる。ハワイ語では多くの言葉の発音が、母音から母音にスムーズにつながっているものが多いため、海のようにシンプルで寛大に聞こえるようだ。

ハワイ語とは真逆の領域にあるのがドイツ語だ。ドイツ語は30の文字で構成されるが、その中には歯切れの良い破裂音のような子音がある。これはUvular(口蓋垂音)と呼ばれ、軟口蓋の端または口蓋垂に後舌面を接触ないし接近させ、気流を阻害することによって調音される子音のことだ。その結果、ドイツ語の響きはどこかしゃがれていて、怒っているかのようにきつく聞こえるという印象を持つ人が多い。偏見があるかもしれないが、多くの人がドイツという国に持つ印象と同じだ。

その国の言語がもつ音や響きは、どのような要因に影響されているのだろうか?

ニュー・メキシコ大学の言語学者であるイアン・マディソン氏は、数多ある言語のもつ音や響きがそれぞれ違うのは、偶然が原因ではないという直感を持っていた。彼は同僚であるクリストファー・クーパーと一緒に世界中にある600以上の地域方言を地形、気候、風土という観点から分析した。彼らの分析結果は去年の11月に開催された第170回米国音響学会で発表された。分析の結果、彼らはいくつかの方言に、鳥の鳴き声や他の動物が発する音にしかみられなかった「音響適応」という現象が起こっていることを発見した。簡潔に説明すると、音響適応とはその言語が進化してきた経過において、その言語が生まれた土壌や風土が影響しているという仮説である。

人間の言語は、すべての生き物の行動様式や性質によって進化させられたはずだ。また、ボキャブラリーは長い時間をかけて、その言語が話される環境に適した形に変化していった。

マディソン氏は、「環境がどのように言葉の音の残響期間に影響を与えているのか」について調査することにした。言語の発音の崩壊率(rate of decay)は、気温、湿度、植生といった要素に影響される。ある文字の元々の発音が変形し、今日の私たちが用いている発音になっていることは、ごく自然なことだ。

言語の発音は、すべてが同じ方法で作り出されたわけではない。高い音の発音は障害物があると音が小さくなってしまい聞こえづらいため、音量と音質が低下してしまう傾向にある。例えば、樹木が多くある森林やジャングルといった環境では、音の伝達は平原で行うよりも格段と難しくなるし、高温と湿気は発音のピッチを変化させる。子音は周波数と振幅が高いため、ピッチとリズムに急激な変化が加わる。これを理由に子音の発声は、直ぐに聞こえなくなってしまう。気温が高い密林地帯では、特に聞こえづらい。

その一方、母音は暑い密林地帯でも暑さと木々をくぐり抜けられるため音量や音質が損なわれにくく、子音と比べて音が通りやすい。なぜかというと、母音の波長の間隔が長いからだ。より寒い環境であれば、子音は母音よりも聞こえやすい。子音の波長の間隔は短く、周波数は高いため音量と音質が低下する時間さえもない。

結果、木々で覆われていて気温の高い熱帯雨林のような地域で使われている言語には、はっきりと分かる子音の数が少なく、音節の構造の中における子音の使用頻度は低い。 

彼らの研究結果は、ハワイ人とドイツ人の喋り方が違う理由を説明することができるだろう。

高温で樹木が多い地域に生息する鳥の鳴き声が低いように、似たような環境で生まれた言語にも子音は少なく、母音が多いという傾向がある。例えば、こういった環境で生まれ、進化を遂げたハワイ語には「lapa-au」、「kahine」、「alaea」といった母音を多用する言葉が多い。対照的に寒い環境で樹木が少ない地域で生まれた言語、例えばドイツ語は子音を多用する言葉が多い。「これはなんと言うのですか?」という質問は、ドイツ語にすると「Wie heißt das auf?」となるが、ハワイ語と比べて子音が多いことが分かる。 

音響適応は地域方言にも影響を与えているのかもしれない。例えば、ジャクソンやミシシッピのような多湿で亜熱帯の気候である地域は、年間平均気温が18.3℃と比較的高い。逆に、ボストンは海洋性気候と大陸気候が共存する地域で、年間平均気温が10.5℃と比較的低い。蒸し暑く、熱波が音を妨げるジャクソンに生まれ育った人たちは、母音を伸ばしながら喋る傾向がある。例えば、「this(ディス)」という言葉は「thee-is(ディース)」と発音されているわけだ。それとは反対に寒いボストンでは、熱波や湿度が音を妨げないため母音が子音に近い形で発音されている。

※ボストン訛りの発音は日本語で説明することが難しいので、下記の動画を参照してください。


Siri vs. the Boston accent

ハワイ語では秘められた意味や隠された伝説のことを「Kaona(カオナ)」と呼ぶ。例として、「ho’omau(ホオマウ)」は激励や勇気づける言葉として使われるが、その他にもやる気を起こさせるフレーズの中にも組み込まれている。音響適応は、ハワイ語が外国人にとって神秘的に聞こえる理由の1つなのかもしれない。 

寒い地域で生まれ育った人々は、子音から意味を引きだす傾向がある。寒い地域の出身の人々がハワイ語を習うと、彼らはハワイ語の母音に含まれる多くの意味に気づくことに苦労することだろう。これはハワイ語を話す人々が、「Mahalo(マハロ)」という言葉の発音が寒い地域で生まれた言語を話す人々よりも、よりはっきりと聞こえる理由だろう。逆にドイツ語の多くの言葉が、冷たくて、意味のない子音の寄せ集めに母音が切り刻まれているように聞こえる理由だ。そして、ドイツ語の中では比較的多くの母音を含む”さようなら”という意味の「 Auf Wiedersehen(アウフ・ヴィーダーゼーエン)」がドイツ人にとっては、鼓膜にハチミツが流れこむように優しく聞こえる理由でもあるわけだ。

 

元記事:How a Country’s Land Shapes Its Language

この記事を訳しながら聞いていた曲